林 悠Yu Hayashi

所属:筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構、東京大学大学院 理学系研究科

研究テーマ

基礎生物学

なぜ眠るのか?~睡眠の生理的意義と進化的起源の解明に挑む~

01 研究概要

睡眠は生命に必須です。しかしながら、その具体的な役割はよく分かっていません。睡眠中は意識が低下し、敵に襲われるリスクが上がります。このような一見不利益な生理状態をなぜ動物が有するのか、その進化的背景や意義の解明を目指しています。そのために線虫とマウスの研究に取り組んでいます。線虫はわずか302個の神経細胞しか持ちませんが、私たちはこのシンプルな動物の睡眠が、哺乳類の睡眠と進化的に保存されたものであることを裏付ける証拠を得ることに成功しました。またマウスでは、夢を生じるレム睡眠の制御に重要な神経細胞を発見し、世界に先駆けて、レム睡眠を遮断できるマウスの開発にも成功しました。これら2種類の動物に注目することで、睡眠の意義を分子レベル・細胞レベルから個体レベルまでのあらゆる階層で解明できると期待しています。

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林研究室メンバー

02 主な論文

Shinichi Miyazaki, Taizo Kawano, Masashi Yanagisawa, Yu Hayashi. Intracellular Ca2+ dynamics in the ALA neuron reflect sleep pressure and regulate sleep in Caenorhabditis elegans. iScience DOI:10.1016/j.isci.2022.104452 (2022)

Chia-Jung Tsai, Takeshi Nagata, Chih-Yao Liu, Takaya Suganuma, Takeshi Kanda, Takehiro Miyazaki, Kai Liu, Tsuyoshi Saitoh, Hiroshi Nagase, Michael Lazarus, Kaspar Vogt, Masashi Yanagisawa, Yu Hayashi. Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2A receptors. Cell Reports 17:109558 (2021).

Ayaka Nakai, Tomoyuki Fujiyama, Nanae Nagata, Mitsuaki Kashiwagi, Aya Ikkyu, Marina Takagi, Chika Tatsuzawa, Kaeko Tanaka, Miyo Kakizaki, Mika Kanuka, Taizo Kawano, Seiya Mizuno, Fumihiro Sugiyama, Satoru Takahashi, Hiromasa Funato, Takeshi Sakurai, Masashi Yanagisawa, Yu Hayashi. Sleep Architecture in Mice Is Shaped by the Transcription Factor AP-2β. Genetics 216:753-764 (2020).

Mitsuaki Kashiwagi, Mika Kanuka, Chika Tatsuzawa, Hitomi Suzuki, Miho Morita, Kaeko Tanaka, Taizo Kawano, Jay W Shin, Harukazu Suzuki, Shigeyoshi Itohara, Masashi Yanagisawa, Yu Hayashi. Widely Distributed Neurotensinergic Neurons in the Brainstem Regulate NREM Sleep in Mice. Current Biology 30:1002 (2020).

Sakura Eri B. Maezono (*Co-first author), Mika Kanuka (*Co-first author), Chika Tatsuzawa, Miho Morita, Taizo Kawano, Mitsuaki Kashiwagi, Pimpimon Nondhalee, Masanori Sakaguchi, Takashi Saito, Takaomi C. Saido, Yu Hayashi. Progressive changes in sleep and its relations to amyloid-β distribution and learning in single App knock-in mice. eNeuro 7(2) ENEURO.0093-20.2020 1–14 (2020).

Shinnosuke Yasugaki, Chih-Yao Liu, Mitsuaki Kashiwagi, Mika Kanuka, Takato Honda, Shingo Miyata, Masashi Yanagisawa, Yu Hayashi. Effects of 3 Weeks of Water Immersion and Restraint Stress on Sleep in Mice. Frontiers in Neuroscience 13:1072 (2019).

*Yu Hayashi, Mitsuaki Kashiwagi, Kosuke Yasuda, Reiko Ando, Mika Kanuka, Kazuya Sakai, *Shigeyoshi Itohara. (*Corresponding authors) Cells of a common developmental origin regulate REM/non-REM sleep and wakefulness in mice. Science 350, 957-961 (2015).

03 経歴・受賞歴

経歴

1999年 東京大学教養学部理科I類入学
2003年 東京大学理学部生物学科卒業
2008年 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了
理化学研究所脳科学総合研究センター(BSI)基礎科学特別研究員
2011年 理化学研究所脳科学総合研究センター(BSI)研究員
2013年 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)助教・主任研究者
2013年-2017年 (兼任)JSTさきがけ研究員
2016年-2020年 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)准教授・主任研究者
2020年-2022年 京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 教授
2020年-現在 (兼任)筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)客員教授・主任研究者
2022年-現在 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授
2022年-現在 (兼任)京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 特定教授

受賞歴

        
2020年 NAM(全米医学アカデミー)Catalyst Award
2019年 フロンティアサロン永瀬賞 特別賞
2017年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2016年 第26回つくば奨励賞(若手研究者部門)

もっと知りたい!Q&A もっと知りたい!Q&A

なぜ研究を志したのですか?

自然から学ぶため

自然はしばしば、人間の想像が到底及ばないようなわくわくする現象や精巧な仕組みを作り出しています。そうしたものに少しでも触れ、また、社会へ還元できることを目指し、研究に取り組んでいます。特に睡眠は、私たちの生活と密接にリンクし、基礎研究と応用研究の双方の面において非常に重要なトピックであると考えています。

研究室の「ウリ」はなんですか?

線虫とマウスの2種類の動物からのアプローチ

全く異なる2種類の動物を用いた研究が共存することで、研究室内でのディスカッションが思わぬ方向へ進むなど、メンバーが広い視点で研究に取り組むことができると期待しています。線虫Caenorhabditis elegansは、進化の過程で極端に細胞の数を少なく抑えることでシンプルなボディプランを獲得した動物であり、私たちの研究においても、睡眠のエッセンスを抽出しやすいと考えられます。一方マウスは遺伝学の適用が容易な哺乳動物であり、謎の多いレム睡眠という現象について解き明かす格好のモデル動物です。

最近ハマっているものは?

野生動物の捕獲・観察

川や雑木林へ出かけ、昆虫・魚・両生類・爬虫類などを捕まえたり観察したりしています。そして、それぞれの動物種の睡眠についてあれこれ考えるのが好きです。