01 研究概要

1. InSomnograf®(インソムノグラフ)を用いた睡眠疫学研究

 これまで行われてきた睡眠の疫学研究は、睡眠時間や主観的な睡眠の質(例:「自分の睡眠に満足していますか?」)と病気の関連を検討したものが多かったのに対し、最近、株式会社S’UIMIN(筑波大学発スタートアップ企業)により開発されたInSomnograf® により、自宅で客観的な睡眠の質が測定できるようになりました。そこで、人間ドックや住民コホート研究の場において参加者を募り、客観的な睡眠の質と病気の関連を検討しています。また、客観的な睡眠の質に影響を与える遺伝子と環境、および、それらの間の交互作用 (gene environment interaction)について研究しています。

2. ナルコレプシーのリアルワールドデータ研究

 ナルコレプシーは心血管障害など様々な疾患の発症と関連する可能性が示唆されていますが(Sleep. 2023;zsad161. doi: 10.1093/sleep/zsad161.)、欧米の研究が多く、日本人を含むアジア人においては十分に明らかになっていません。そこで、日本人の医療レセプトデータを用いて、ナルコレプシーの患者が将来どのような疾患を発症しやすいか、治療薬によってそのリスクは異なるか、どの部分に介入の余地があるか(健康診断による生活習慣病の早期発見など)等について検討しています。

3. 睡眠薬の薬剤疫学研究

 睡眠薬には一般に、ふらつきによる転倒・骨折など、様々なリスクがあります。一方で、眠れることによるQuality of life (QOL)の向上や、最近ではオレキシン受容体拮抗薬がアルツハイマー型認知症の予防に有用である可能性(Ann Neurol. 2023;94:27-40)など、ベネフィットも示唆されています。このように、睡眠薬のリスク・ベネフィットバランスを定量化し、異なる睡眠薬の間で比較する薬剤疫学研究(ランダム化比較試験のメタ解析や後ろ向きコホート研究など)を行っています。

研究室サイト

02 主な論文

Iwagami M, Seol J, Hiei T, Tani A, Chiba S, Kanbayashi T, Kondo H, Tanaka T, Yanagisawa M. Association between electroencephalogram-based sleep characteristics and physical health in the general adult population. Sci Rep. 2023;13(1):21545. doi: 10.1038/s41598-023-47979-9.

Iwagami M, Qizilbash N, Gregson J, Douglas I, Johnson M, Pearce N, Evans S, Pocock S. Blood cholesterol and risk of dementia in more than 1·8 million people over two decades: a retrospective cohort study. Lancet Healthy Longev. 2021;2(8):e498-e506. doi: 10.1016/S2666-7568(21)00150-1.

Mahalingasivam V, Su G, Iwagami M, Davids MR, Wetmore JB, Nitsch D. COVID-19 and kidney disease: insights from epidemiology to inform clinical practice. Nat Rev Nephrol. 2022;18(8):485-498. doi: 10.1038/s41581-022-00570-3.

03 経歴・受賞歴

経歴

2008 東京大学医学部卒業
2008-2010 東京大学医学部附属病院 初期研修医
2010-2012 湘南鎌倉総合病院 腎免疫血管内科 後期研修医
2012-2013 東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻(公衆衛生大学院)
2013 東京大学医学部附属病院 血液浄化療法部 特任助教
2013-2014 ロンドン大学 (London School of Hygiene and Tropical Medicine) 疫学修士課程
2014-2018 ロンドン大学 (London School of Hygiene and Tropical Medicine) 博士課程
2018-現在 ロンドン大学 (London School of Hygiene and Tropical Medicine) Honorary Assistant Professor
2018-2022 筑波大学 医学医療系 助教
2022-2024 筑波大学 医学医療系 臨床医学域 准教授
2024-現在 筑波大学 医学医療系 臨床医学域 教授

受賞歴

2018 国際腎臓学会 International Society of Nephrology Frontiers, Young Investigators Travel Grants
2020 国際薬剤疫学会 International Society of Pharmacoepidemiology (ICPE), Spotlight Poster Winner
2020 筑波大学若手教員奨励賞
2020 筑波大学医学医療系優秀教員賞(研究領域)
2021 国際腎臓学会 Kidney International Reviewer-of-the Year Award
2021 筑波大学医学医療系優秀教員賞(研究領域)
2022 筑波大学医学医療系優秀教員賞(研究領域)
2023 日本疫学会 Journal of Epidemiology 優秀査読者賞