2018.09.26
寝ても寝ても眠いマウスの脳内メカニズム 〜単一遺伝子の単一アミノ酸が、1日の睡眠時間と睡眠要求量・眠気を制御する〜
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の本多隆利(研究当時、大学院生/日本学術振興会特別研究員DC1)、船戸弘正客員教授、柳沢正史機構長/教授らの研究グループは、遺伝子組換えマウスを用いた睡眠解析により、1日の睡眠時間と睡眠要求量(眠気)をコントロールする上で欠かせない単一遺伝子の単一アミノ酸を突き止めました。
ゲノム編集技術CRISPR/Casシステムにより、リン酸化の修飾を受けるSik3遺伝子の551番目のアミノ酸(セリン)を置換したところ、ノンレム睡眠時間が延長、睡眠要求量が増加する過眠症マウスが作製されました。この結果は、リン酸化酵素SIK3タンパク質の単一アミノ酸S551が、1日の睡眠時間と眠気を決定づける上で不可欠な構成要素であることを示します。分子レベルでは、S551の置換や欠損により、SIK3と他のタンパク質との相互作用や結合が変化することが明らかになりました。このアミノ酸は線虫、ショウジョウバエ、マウス、ヒトまで進化的に広く保存されており、生物種を超えて睡眠・覚醒制御の中核を担うことを示唆します。
本成果は、細胞内のシグナル伝達系と個体レベルの睡眠・覚醒行動を繋ぐ発見です。今回の研究成果を糸口に、より詳細な睡眠・覚醒制御の分子ネットワークの解明が進むことが期待されます。本研究で樹立された過眠症モデルマウスが示す睡眠様態は、長時間の睡眠時間を確保しているにも関わらず、日中の眠気が軽減されない「特発性過眠症」の病態に共通しており、これら未だ原因不明のヒトの睡眠障害の分子メカニズムの理解に貢献できると期待されます。
本研究成果は、2018年9月24日に米国科学アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS) のオンライン版で先行公開されました。
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