研究概要 研究概要

プロジェクト概要

 睡眠は、心身の健康を保つのに不可欠です。しかし、日本人は睡眠にまつわる大きな問題を抱えています。日本人の平均睡眠時間は他の先進諸国と比べて極端に短く、5人に1人が十分に睡眠をとれていないと言われています。こうした睡眠の問題は、気分障害や生活習慣病、悪性腫瘍やの認知症などの疾患の発症・重症化の原因となるばかりか、経済的損失までも招いています。
 その一方で、睡眠の神経生理学的な機能や制御機構は未だに謎に包まれています。IIISは、睡眠の謎に迫る研究を続け、睡眠制御に関わる遺伝子の発見や、マウスに冬眠様状態を誘導する神経細胞の同定に成功するなどの成果を上げてきました。この研究プロジェクトは、これまでの研究をさらに進め、以下の2つのサブ目標を掲げ、睡眠・覚醒のしくみを解明して人為的にコントロールする技術や医薬品を開発し、睡眠にまつわる健康的・経済的問題を解決することを目指しています。

サブ目標1【日常生活の中で自然と予防ができる社会の実現】

1.健康なショートスリープによる睡眠からの解放
 健康の維持に必要な睡眠時間は、遺伝的に決まっています。しかし、仕事や家事・学業のために自分に適した睡眠がとれず、多くの人が睡眠負債を抱えています。そこで、遺伝的に決まっている睡眠時間を調整する方法を開発し、短時間睡眠でも健康でかつ活動的な生活を送れる技術の開発を目指します。
2.睡眠負債で病気にならない社会
 睡眠負債によって、様々な疾患の発症・重症化が起こることが分かっています。このメカニズムを解明し、疾患を予防する方法を開発することを目指します。
3.睡眠トレンドに基づくテーラーメイド予防医療
 IIIS発ベンチャー企業の(株)S’UIMINは、家庭用睡眠計測デバイスを開発し、2020年に睡眠計測サービスを開始しました。これを活用して、個人の睡眠の特徴や傾向から、疾患リスクを予測する方法を開発します。また、上記2の予防技術と組み合わせたテーラーメイド予防医療を実現します。

サブ目標2【世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワークの実現】

4.どこでも災害時でも睡眠医療へアクセスできる社会
 睡眠に関わる疾患を正確に診断するためには、脳波の計測が必要です。しかし、これができる病院は限られ、地方や災害等の緊急時に脳波計測を行うことは非常に難しいという現状です。そこで、いつでもどこでも睡眠医療が提供できる社会を作ります。
5.人工冬眠技術で救急時や災害時でも死亡率や後遺症を劇的に減らせる社会
 IIISは、2020年にマウスを人工的に冬眠様状態することに成功しました。これを応用し、ヒトの人工冬眠を可能にすることを目指します。冬眠様状態では、怪我や急病の際に症状の悪化を防ぐことができます。救急救命のための時間的猶予ができることから、緊急搬送が容易になり、救急時や災害時に医療崩壊を防ぎます。