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2025.06.24

夢を生じるレム睡眠のスイッチを担う細胞の正体を解明 ―レム睡眠中ずっと活動する神経細胞、数十年の謎がついに明らかに―

私たち哺乳類の睡眠は、大きく「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に分けられます。このうち、 レム睡眠は脳が活発に働いており、鮮明な夢を見やすい睡眠段階として知られています。最近 の研究では、高齢者の中でもレム睡眠の割合が少ない人は、認知症や心不全のリスクが高まる ことが報告されています。また、夢の内容を現実の動作に反映してしまう「レム睡眠行動障害」は、パーキンソン病の前ぶれとして現れることもあり、パーキンソン病が進行するとレム睡眠そのものが失われるなど、レム睡眠の異常がさまざまな病気と関係している可能性が示唆されています。
しかし、レム睡眠の仕組みや役割についてはその多くが未解明です。レム睡眠の謎を解く鍵 として注目されてきたのが、レム睡眠中だけ活動する「レム-on ニューロン」です。これらの ニューロンは、脳幹に分布し、レム睡眠の始まりとともに発火し、睡眠が終わるまで活動し続 けることが知られていましたが、その細胞の正体や具体的な役割はこれまで不明でした。 私たちの研究グループは、これまでに「CRHBP 陽性ニューロン」という脳幹の細胞群が、マ ウスでレム睡眠の開始や維持に重要な働きを持つことを報告してきました(2024/10/4 プレスリリース)。しかし、この細胞群の正確な活動パターンは未解明であり、レム-on ニューロンと同一の細胞群かどうかは分かっていませんでした。
今回の研究では、「Opto-tagging 法」(注3)と呼ばれる最新の神経記録手法を用いて、生きたマウスの脳からCRHBP 陽性ニューロンの活動を1 細胞ずつ記録することに成功しました。その結果、CRHBP 陽性ニューロンの多くが、まさにレム睡眠-on ニューロンと一致する発火パターンを示すことがわかりました。
つまり、本研究によって、長年正体不明だった「夢を見るスイッチ」に相当するニューロン の実体が初めて明らかになり、それが実際にレム睡眠の制御に関わっていることが実証されま した。「CRHBP 陽性ニューロン」はレム睡眠に異常があるパーキンソン病患者の脳で失われていることも分かっています。本研究により、レム睡眠の仕組みをより深く理解するための道が開かれ、将来的にはレム睡眠の異常が関わる病気の予防や治療にもつながることが期待されます。

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